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麹職人が語る「暁光」

麹職人が語る「暁光」

-プロが語る「SAKERISE」

SAKERISEでは、造り手の想いを届けると同時に、SAKERISEに関わる様々な分野のプロフェッショナルの視点で、幅広く奥深い日本酒の魅力をみなさまにお届けします。

 

-楯の川酒造 製造部 麹担当 岩井美貴

関東から移住し新卒で2016年に入社。製造部へ配属されてから2年目、現在は麹担当を担う。日々、麹と向き合う彼女は自称 “麹マニア” 。 「麹は日本酒造りの要ともいえる重要な役割。麹の出来がお酒の味を左右するといっても過言ではない」と岩井は語る。「麹」という観点から見て、暁光はどのようなお酒なのだろうか。

 

-麹マニア、岩井が語る「暁光」

私が麹を「日本酒造りの要」だと考える理由は、その働きにあります。麹には蒸米に含まれているデンプンをブドウ糖に変える作用があり、麹によってブドウ糖になった糖を酵母が食べることで、アルコール発酵が始まります。つまり、麴が無ければお酒が造れません。糖化を助けるだけでなく、糖化中に出る酵素が日本酒の味わいや酒質に影響するため、麹はなくてはならない存在です。

麹は30度以上ある、「室(むろ)」と呼ばれる部屋の中で約3日間成長させます。蒸しあがったばかりでアツアツのお米を室に引き込むところから麴造りが始まります。ひとつひとつの工程で狙い通りの温度になるよう麴の成長を促したり、成長しやすい環境を整えたりします。

暑い部屋での作業のため大変さもありますが、丹精込めて造った麹が、日本酒になることを想像すると、気が引き締まる思いで、麹が愛おしく特別なやりがいを感じます。

雪女神は山形県初の大吟醸用酒米として育成された品種で、きれいな酒質に仕上がるのが特徴です。今回、暁光を仕込むにあたって考えた事は、最終的な味わいがどこを目指しているのかというところです。甘みを感じやすい酒質なのか、軽快さが欲しいのかなど商品によっても異なりますが、暁光は、どちらかというと、軽快さと華やかな香りが大事なのではないかと思いました。

暁光に使用する雪女神の精米歩合は18%。爪の先ほどの大きさに磨き抜いた酒米は、まるでキャビアの様に洗練された趣があります。この小さな米を狙い通りの味わいを出してくれる良い麹にすることができるか、高精白の麹づくりはいつも緊張します。

実際に製麹してみると、お米が小さいからか普段とは温度の上がり方がやや遅い印象でしたが、なんとか麹を温めて、麹が成長できる環境を維持する事に注力しました。

麴造りの最後の工程である、「出麴」という作業で、麴の出来具合を確認することができます。最初は小さなお米で少し心配もありましたが、11粒の中まで菌が生えているのが確認できました。ここまで来れば、麹担当としては安心して次の工程の担当者に渡すことができます。

お酒として仕上がった暁光を飲んだときの第一印象は、「ひたすらに綺麗」。よけいな苦みや雑味がなく、口の中を軽快に通り抜けていくようでした。後味に優しく広がる旨味とわずかな酸味を感じましたが、麹由来のものではないかと思います。

まるで赤子をかわいがるように丁寧に育てた麹が、こうして綺麗なお酒となってくれると、麹担当としてもやりがいを感じて幸せな気持ちになります。

みなさまにも、麹に思いを馳せながら楽しんでいただけたら幸いです。

 

 

<岩井が感じる、暁光の「味わい」の特徴>

透き通るきれいな輝き。

穏やかながらも確かに香る果実感。

シルクのような滑らかな舌触り。

室温に戻るにつれて広がる甘美な香り。

優しい酸味と余韻。

 

次回は暁光の命とも言える酒米、“雪女神”の農家さんの声をお届けする予定です。どうぞ楽しみにお待ちください。